子どもの才能は生まれつき?
いいえ、家庭の関わりが大きな作用を果たします。


2015.12.4 「かたちの形」と流動性知能 〜2年生編〜 その2

 さて、次はもう少し複雑な立方体の展開図を扱った課題を見てみましょう。「かたちの形」の第52回のテキスト課題です。

 課題文は次の通りです。「つぎの てんかい図を 組み立てた時、 の ちょう点と くっつくのはどの点になるか、 すべて 答えなさい。」


 この課題の「ねらい」には、「展開図のどの頂点とどの頂点がくっつくのか、やり方を覚えさせるのではなく、イメージする練習を行います」とあります。このことからも、流動性知能を鍛える課題であることがよくわかりますね。理屈を覚えるのではなく、経験でイメージング力を鍛えるのです。

 このような課題に対する反応力を磨くうえで、アニメーションは非常に適性の高い媒体と言わざるを得ません。私たちの学習塾のある授業担当者は、「『アニメーションの威力には参りました。降参です』と言いたくなるほど、この種の図形課題とアニメーションはベストマッチングだと思います。ほんとうにすばらしいです」と語っていました。

 図形の・印のついた頂点に着目させ、それと重なる別の頂点の場所を見つけ出すプロセスを口頭で説明するとなると大変な時間がかかります。ところが、アニメーションで展開図を折りたたんで見せれば、面倒で難しい説明がほとんど不要になってしまうのですから、「参りました」という発言が出るのも頷けます。この担当者は、低学年部門で指折りの指導達者な人物ですが、それでもアニメーションの効能には感嘆してしまうのです。

 (1)の課題など、最初は大人でも一瞬面食らってしまうのではないでしょうか。この課題について、玉井式の「アプローチシート」には次のような解説があります。

 授業では、映像で展開図が組み立てられる過程をくりかえし見せています。初めのうちは、それぞれの頂点がどことどこが重なるか、全てをイメージするのは難しいかもしれませんが、この段階では『頂点と頂点とを点線で結ばせる』ような、『やり方』を教えるのではなく、頭の中で『組み立て』をイメージする力を養いたい時期です。ティッシュやお菓子の箱などを平面に開いて、また組み立てるようなことを遊び感覚でやらせてみるのも効果的です。

 おもしろいことに、展開図が組み立てられる様子をアニメーションで見ると、大人はそれを見ても理屈で理解しようとするせいか、目や感覚がすぐには追いつきません。それに対して、子どものほうはパッと見ただけで「なるほど!」とすぐさま反応します。こういう子どもは、アニメーションを使った効果が大変大きく、玉井式の講座でグングン伸びていける子どもです。大人のほうは、理屈で理解しようとして画面を追いかけますから、せっかくのアニメーションの利点が生かされないという事態になりがちです。

 ただし、どのお子さんもアニメーション学習の効果が得られるかというと、残念ながらいろいろです。展開図を1〜2度広げたり閉じたりして見せただけでは答えられないお子さんもいます。視覚でとらえた情報が、脳内の判断を下す領域へとうまく伝達されていないのでしょうか。だからこそ何度も繰り返して見る必要があるのですが、そのための時間が先生の導きや説明と比べて格段に短くて済むところがアニメーションによる指導の大きな利点です。

 もう一つ、アプローチシートの下線部に注目してください。「『やり方』を教えるのではなく、頭の中で『組み立て』をイメージする力を養いたい」とあります。こういう視点に立った指導こそ、流動性知能の発達に欠かせないものなのです。覚えようとしても身につかない能力なのですから。低学年の今のうちに、覚え込んでテストで点を稼ぐような勉強法に傾いてしまうと、伸びるはずの能力を自ら伸びなくさせてしまう危険性があるのです。

 保護者におかれては、このアプローチシートの記述を参考にして、箱を開いていじる体験、繰り返し課題に取り組む体験を通して、イメージングの力を磨くことの必要性をご理解いただき、そういった方向からのサポートをしていただくようお願いいたします。前回ご紹介した「アプローチシート」の記述にもあったように、お子さんがうまく答えられないようであれば、一緒に紙で図形をつくり、折り曲げて実際に確かめるのもよい方法でしょう。ちなみに私のところでは、紙でつくった展開図を授業後にもち帰らせ、家庭で繰り返し確かめられるようサポートしています。

 最後に。くれぐれも「もっとはやくできないの?」などと追い立てたり、「間違ってるじゃない!」と叱ったりしないでください。それこそ、図形単元への苦手意識や「図形は嫌い!」という気持ちを子どもの心に植えつける、負の効果をもたらす働きかけに他なりません。先ほどご紹介したアプローチシートの記述にあるように、「遊び感覚」こそ、流動性知能の発達に欠かせないものです。家庭での学習においても、楽しく取り組めるよう工夫してみてはいかがでしょうか。

H,S



2015.12.11 玉井式が育む“イメージング力”とは!?

 このところ、国語的算数教室の「かたちの形」の授業についてご説明しています。そのとき、何度か“イメージング”という言葉が出てきたと思います。では、玉井式の言う“イメージング”とは、どのようなことを意味するのでしょうか。

 私たちの日常生活においても、「ちょっとイメージできないよ」とか、「同じ人なのに、写真によって随分イメージが違うね」、「イメージと実物とでは随分違っていた」など、イメージという言葉は広く使用されています。この場合のイメージとは、「心のなかで描く姿・像」といったような意味でしょうか。“イメージング”は、“イメージ”から派生した言葉で、「視覚化」「画像化」などの意味をもっています。しかしながら、玉井式の言う“イメージング”はもう少し幅広い能力的側面をとらえた言葉です。

 玉井先生は、「“イメージング”とは、文章を読んで状況を理解する」ことだと説明されています。また、図形を空間移動させたり、立体図形の見えない部分を想像したりする場合にも“イメージング”という言葉を用いておられます。

 私は、「文章を読んで状況を理解する」ほうの“イメージング”を、算数の文章題を解く場合と、長文読解の場合の二つに分けて保護者にご説明しています。その理由はすぐ後に書いている通りです。よって、私は玉井式の“イメージング”を、「1.算数課題の数的場面を具体的かつ視覚的にとらえること」、「2.文章で描かれている「ものがたり算数」のストーリーを、絵のように思い描くこと」、「3.図形を心的に移動させたり、見えない部分を想像したりすること」の三つの観点に立ってご説明しています。


 1と2は、「文字で表現されている内容を、心のなかで視覚的にとらえ直す」という点では同じことです。ただし、算数の文章題ではわずか数行の記述を、具体的かつ視覚的にとらえ、出題状況に合わせて立式し、量、重さ、距離、人数、個数、順番などの解を得ることが求められます。一方、物語の長文理解の場合はおびただしい文字情報を脳内で処理し、重要な情報(あらずじ、できごと、人物の心理など)のみを記憶に残していくことが求められます。このような違いがありますので、私の所属する学習塾においては別々に説明しています。この二つは、いずれも結晶性知能の働きによるものです。これに対して3は、図形の心的な操作を意味しており、こちらは明らかに流動性知能の働く分野です(「結晶性知能」と「流動性知能」については、詳しくご説明していますので、過去の記事を参照ください)。

 1〜3の“イメージング”について、私たちの学習塾では次のように説明しています。

1.算数の課題場面を具体的にイメージできる。だから自分で立式できる!
  子どもが算数を嫌う理由の一つは、「出題場面をイメージできないこと」です。そのため、自分で式を立てられないのです。これは、言語情報と図や絵の関係を結びつけ、問いの意味を理解することができないからです。
  玉井式はこの問題をアニメーションの活用で解消しました。アニメの物語は、低学年児童が理解できる身近な世界を題材としています。アニメキャラクターを通して出合う課題場面を、まるで自分が体験しているかのように理解し、解決のための方法(式)を考えることができます。
  学習課題には少し難しいものもありますが、子どもたちは目を輝かせ、真剣かつ楽しげにチャレンジしています。それは、覚え込みや演習でテスト対応力をつける旧来の指導法とは異なる、“子ども目線”に立った指導法だから引き出せる成果です。

2.低学年児童が長文を読めるのはなぜ? 玉井式ならではの秘密がそこに。
  “文章を読む”とは、著述内容を絵のようにイメージすることです。物語なら、文中の世界に入り込み、主人公と一体化して追体験することを意味するでしょう。そのために、読み手は活字による情報と自らの既有知識とを照合し、具体的な像を心のなかで描かねばなりません。
  しかしながら、低学年児童は人生経験が浅く、活字からイメージを起こすのが苦手です。そこで玉井式では、アニメーションを活用して子どもの読み取りをサポートしています。たとえば、長文課題のストーリーは教室で見たアニメの続きになっています。それが著述内容のイメージングを容易にするとともに、文章の読み取りに欠かせない筋の予測を可能にし、最後まで長文を読み通すのをサポートしています。

3.アニメーションが図形のイメージ操作能力を引き出す!

  「図形」は感覚的素養がものを言うせいか、得意不得意がはっきりしがちな単元です。こうした方面の能力は、流動性知能が著しく発達する9歳頃までの学習で大いに伸ばすことができます。
  玉井式は、図形の感覚的素養をアニメーションで磨きます。アニメーションは、図形(展開図)を広げたり閉じたり自在にできますし、図形の隠れた部分を見せたり、特定の部分を移動させたりすることも自在にできます。したがって、教具の図形を使うよりもはるかに時間効率のよい学習が可能になります。
  中学入試では、図形の空間移動やイメージ操作の力がしばしば問われます。玉井式のアニメーション学習はこれらの資質を磨くうえですばらしい効力を発揮します。また、それを楽しみながらできる点においても優れた学習法だと確信しています。

 以上、玉井式が育むイメージングの力について、私たちの学習塾がどう保護者にご説明しているのかを簡単にご紹介しました。

 だいぶ文字数がかさんでしまいましたので、今回は前述の3つのイメージングのうち、1について少し私の思っていることを書いて終わろうと思います。

 だいぶ前のことですが、私の勤務している学習塾に、「いくら入塾試験を受けても受からない。家庭教師までつけて1年間がんばらせたのに。どうしてか」といった相談とも苦情ともつかない電話がありました。そこで、そのお子さんの入塾試験の答案用紙を見たのですが、算数では簡単な問題を含めて文章題が全滅。国語では、文や語句で答える問題が白紙、もしくは不正解ばかり。

 たとえば、「400gの重さのバケツに砂糖が500g入っています。砂糖を250g使いました。いま、バケツと砂糖の重さは合わせていくらですか」といったような問題に、10000gなどという途方もない数の答えを書いていました。無論、式はでたらめでした。計算と漢字の問題はおおよそ正解でしたから、おそらく1年間家庭教師にそればかりやらされていたのでしょう。バケツや砂糖などの重さを実体験に基づいて考えられない。これも大問題だと思いませんか?

 前述の例でもおわかりいただけるように、いくら計算操作に長けていても、式を立てる能力がなければ算数の文章題は解けません。算数ができないと言われる子どもの多くは、立式力に問題を抱えているのです。それは、わずか数行の問題文の意味を理解し、問われている場面を具体的にイメージし、数のやり取りを式にして表すことができないからです。玉井式の「ものがたり算数」では、アニメーションで課題の場面を視覚的に捉え、理屈をよく理解した上で式を立てるよう導いています。こうした経験を重ねておけば、文章題を解くときに課題の状況をしっかり頭に描いたうえで立式する姿勢が培われます。上記のようなお子さんにはなりませんからご安心ください。

 蛇足話を一つ。脳科学の専門家によると、空間認知の知能を養うために親が配慮すべきことがあります。この知能は、何かを見たときに、素早くその形や大きさ、位置、距離、方向などを感覚的に判断する力のことです。今回話題にした3つめのイメージングに深く関わる知能です。この知能を鍛えるには、水平目線、バランスのよい姿勢で物を見ることが重要だそうです。それが見たものを瞬時に正しく認知する能力を育てるうえで欠かせないのだそうです。テレビを寝転がって見たり、ソファーにもたれてゲームをしたりするのは禁物なのですね。毎日の生活で、正しい姿勢を心がけましょう。

H,S

 

 

2015.12.18 勉強に向かわせるのは知性?それとも感情? その1

 これは、私の勤務する学習塾がまだ玉井式を導入する前の話です(低学年部門にはオリジナル講座があり、今でも玉井式と併用しています)あるとき、3年生の息子さんをもつおかあさんが相談に来られました。相談の内容は、だいたい次のようなことだったと記憶しています。

 「うちの息子は全然やる気がなく、ちょっと目を離すとサボってばかりなんです。勉強を始めてもすぐに気が散ってしまうのか、ぼんやりしてしまいます。集中力も粘りもありません。そんなですから、塾の成績もさっぱりです。小学校入学以来、ずっと家庭教師をつけて勉強させているというのに。無理やり押さえつけてやらせないと、もうどうしようもありません。どうしたらよいでしょうか?」

 面談の準備として、予め彼の学習状況を授業担当者に尋ねていたのですが、「お子さん自身はよい子ですし、頭も悪くないと思うのですが、とにかく家では厳しく勉強をさせられているらしく、勉強を楽しくやるという雰囲気からほど遠い状態のようです。やらされ勉強が染み付いているので、教室でも自分から興味をもってやる姿勢がなく、食いつきが悪いうえ、すぐに机の上で頬杖をついてしまいます」というような報告を受けました。

 かつて「教育ママ」という言葉がありましたが、まさにこの息子さんのおかあさんはそんなイメージのかたでした。「今のままでは、息子さんは率先して勉強するようにはなれませんし、たとえ机に向かっても集中してやれる状況にはなりません。家庭教師をつける効果はありませんから、まず辞めてもらってお子さんが自分で勉強する方向に向かわせましょう。また、勉強は楽しいものでないと長続きしません。彼が今できるレベルの問題をやらせて、自信をつけさせましょう。当面は、成績を度外視して積極的に勉強に取り組む姿勢を築いていきましょう」とまあ、こんなアドバイスをしたように記憶しています。


 すると、予想外の言葉が返ってきました。「先生、あの家庭教師は○○学院、○○大学の出身ですごく優秀なんです。絶対にやめさせられません。あんないい先生、なかなか見つかりませんから」と、家庭教師を辞めさせる提案は即座にはねつけられました。また、「勉強をもっと楽しくできる雰囲気を」という働きかけに対しては、「先生、勉強というものは歯を食いしばって辛さに耐えながら克服していくものです。そうして辛抱しているうちに面白さもわかってくるんです!」と切り返されてしまいました。

 みなさんはどう思われますか? このおかあさんの言葉にも一理あります。勉強を心底楽しいと思ってやっている子どもは、そうそういるものではありませんし、コツコツ取り組んでいくなかで力がつき、面白さもわかるようになっていくのは事実ですから。

 しかしながら、息子さんのそのときの現実はどうでしょう。家庭では家庭教師に勉強を全て管理され、家庭教師のいないときには、おかあさんに張りつかれたあげくガミガミ叱られる。これでは、息子さんは息が詰まってしまうことでしょう。自由に使える時間がろくにない状態では、行動の自律性など育つはずがありません。自発的に勉強に取り組むことも、勉強の面白味を味わうことも不可能です。


 このおかあさんは、自分の信念を曲げることなく息子さんが6年生になるまで押し通されました。その結果、状況はますます悪くなるばかり。成績は、最下位ランクを低迷するようになりました。さすがに「このままでは」と悟られたのでしょうか。秋になろうかというころ、指導担当者の助言をやっと聞き入れ、家庭教師を辞めさせ、「自分でできる範囲の勉強をするように」と息子さんを自由にさせました。しかしながら、受験勉強の仕上げ期に入ってからの突然の方向転換に、息子さんは戸惑うばかりだったのではないでしょうか。

 ただし、少しだけ「よかった」と思ったことがあります。1〜2か月後、指導の現場から「彼の表情が明るく、生き生きとしてきた」という報告があったのです。

 いよいよ入試が近づき、最後の模擬試験がありました。私は中学入試の指導現場にいないので、直接彼を見ることはありません。しかし、彼がどういう状況にあるかが気になり、模擬試験の結果を調べてみました。すると、これまで見たことのないよい成績をとっているではありませんか。「おっ、これなら彼が行きたがっている私学への合格もまんざら望み薄ではないぞ」と、思ったほどです。「どうせ無理」と決めつけていたのを、少し申し訳なく思ったことを記憶しています。

 さて、彼の入試結果です。残念ながら、志望校の合格者の中に彼の名前はありませんでした。彼の志望校は、いわゆる中堅と言われる私学の一つでしたが、受験対策の終盤になってから少し学習が好転したくらいでは合格圏に届かなかったのでしょう。

 まだ本題に入っていないのですが、長くなったのでひとまずここで終わらせていただきます。続きは次回お伝えします。よろしくお願いします。

H,S

 

2015.12.25 勉強に向かわせるのは知性?それとも感情? その2

 前回は、長い前置き話のまま終わってしまいました。すみませんでした。ここからが、当初のテーマに基づいた話になります。

 人間の知的活動を支えるのは、「知性の座」と言われる前頭前野です。この脳部位は人間だけに特別発達しており、様々な感覚器官から送られてきた情報を分析し、どういう行動をとるかを決めていきます。では、子どもを勉強に向かわせるうえで最も大きな働きをするのは「前頭前野」が司る知性の働きかというと、実はそうではないようです。


 脳のなかではじめに情報を受け入れるのは、大脳辺縁系にある扁桃体と言われる部分です。ここで大まかな価値判断をし(第一次判断系)、そのあと大脳皮質の前頭前野へと情報が転送されます。そこで情報が細かく分析・判断され、価値があると判断されると「自分もやってみよう!」という心の動き(二次判断系)が生じてきます。

 ただし、扁桃体で情報がプラスの判断をされていることが、前頭前野が行動すべしと判断するための前提となります。このことが意味するのは、物事をやってみようという意思決定の中心にあるのは、好き嫌いなどの「感情」であり、「知性」の働きではないということです。

 なぜ「感情(情動)」に行動決定の優先権があるのでしょうか。それは人類の進化の過程において、生き残りに関わる判断の優先権が決まっていったからだと考えられています。たとえば、見慣れない大きな生き物が突如接近してきたとき、「これは安全か、それとも危険か」、「快につながるものか、不快につながるものか」を瞬時に判断しなければ、生き延びていけません。ですから、まず情報を大まかに仕分けする必要があります。そして、そのうえで入ってきた情報を分析していくのが人間の脳の働きです。

 このことから言えるのは、子どもの勉強でまず大切にすべきは「快」の感情をもたせるということです。情報がまず扁桃体でプラスの信号として通過しなければ、前頭前野が「勉強しよう」「このように取り組もう」という指令を発してはくれません。先週のブログで話題にしたおかあさんは、「勉強をがんばってほしい」という息子さんへの期待や願いとは裏腹に、「勉強から逃げ出そう」というマイナスの行動を助長する働きかけをしておられたのです。「無理やりにでもやらせていれば、やがて自分からがんばるようになるだろう」と思われたのでしょうか。残念ながら、それを小学生の子どもに望むのは無理というものです。

 厳しい勉強をものともせずにがんばっている子どもがいますが、それは、子ども自身が勉強のおもしろさや奥深さを実感する経験を積み重ね、勉強を自分自身のものにしているからであり、大人が無理にやらせる勉強ではとてもこうはいきません。


 無論、勉強においては“快”か“不快”か、明確に判断できないことが多いものです。したがって、面白さがわかるようになるまで粘り強く取り組むことも必要です。勉強の習慣づけの大切さは、そういうところにあります。勉強を習慣づけ、継続していくプロセスを通して、物事のおもしろさもわかってくるようになるのです。その意味において、先ほどのおかあさんの考えもあながち間違いではありません。

 ただし、子どもの勉強をサポートするときに気をつけたいのは、子どもに「やってみよう!」という気持ちをもたせるよう上手に働きかけることです。「勉強=快」という気持ちになるのが理想ですが、一足飛びのこのレベルにはいかないものです。そこを理解したうえで、いかにして子どもを勉強に向かわせるかを大人は考えてやらねばなりません。その方法をこのおかあさんは間違われたのではないでしょうか。

 親に求められるのは、子どもに努力することの大切さを伝えながら、子どもの少しの努力も見逃さず、ほめたり喜んでやったりすることです。やがて、勉強が習慣づけられてきたなら、自然と子どもは自分から取り組むようになります。そう、勉強の面白味も少しずつわかってくるからです。また、やるべきことをやらないと気が済まないという、こだわりが生まれてくるからです。このレベルに子どもが漕ぎつけるまでが、親のがんばりどころなのです。

 さて、先ほどの男の子の話に戻ります。中学入試から3年後、ある私学の入試会場で、受験生の案内役をしているボランティアの中3生のなかに彼の姿がありました。かつての指導担当者が声をかけたら、とても明るい笑顔を浮かべて話をしてくれたそうです。

 彼の入試結果は、前述のように希望通りではありませんでした。しかし、1校だけ受かった私学がありました。そして、喜んでその私学に進学したそうです。おかあさんも、ぎりぎりのところで息子さんへの対処の誤りに気づき、方針転換をされたことがよい流れを引き寄せたのでしょう。彼の中学進学後の生活が順調であるのは、入試を手伝う彼の様子からも十分にわかり、ほっとしたことを思い出します。

 勉強はなぜするのでしょう。必要だから、面白いものだからです。そのことに子ども自身が気づくよう導くのが大人の務めです。「勉強=快」の感情が脳のなかで定着するまで、愛情深く、辛抱強く子どもを応援してやりましょう。


 さて、今年の夏から始めたこのブログですが、気がつけば年内最終回となりました。全国の玉井式の教室にお子さんを通わせておられるご家庭の保護者に、また、玉井式の教室で指導を担当しておられる先生がたに向けた情報を発信してみようと、玉井先生と話し合って始めたブログですが、多少なりともお役に立っているでしょうか。

 私は中学受験指導の専門塾で広報の仕事を30年余りしています。その間、受験指導の現場で16年程働き、以後は低学年の学習指導部門の責任者も兼務しながら今日に至っています。このブログの記事内容は、小学校低学年の時期の学習や子育てと、以後の学力の健全な発達を見据えて書いています。すばらしい学力の持ち主になるための、特別な秘訣などないというのが、私の経験から導き出した結論です。子どもの知育については、当たり前のことを掘り下げて突き詰め、それをいかに実践するか。それに尽きると確信しています。

 このブログは、来年も継続していく予定です。年明けの記事掲載のスタートは1月8日(金)になろうかと思います。どうぞよろしくお願いいたします。それではよいお年を。

H,S


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