子のイラストバックナンバー

2018.11.30

きく耳を育てる教育が
子どもを賢くする


 今回は、子どもの学習に密接な関わりをもつ「記憶」を話題に取り上げ、みなさんと共に考えてみようと思います。

 どれだけ記憶できるかは、勉強の成果を規定します。同じ勉強をしても、記憶力がよければ当然蓄えられる知識の量は多くなります。同じ授業を受けたはずなのに、同じくらい時間を割いて一生懸命勉強したのに、友人のほうが遥かに多くのことを覚えていて、テストでの成績もよい。それが悔しくて、「ああ、もっと記憶力がよかったら…」そんなことを思ったことはありませんか?

 ところで、記憶力というのは生まれつきの能力なのでしょうか。それとも後天的に獲得する能力なのでしょうか。私自身はどう思っていたかというと、かつてはどちらかと言うと生まれつきの能力だと思っていました。しかしながら、ある学者の著作を読んでいたときに、「家庭のしつけによって伸ばせる能力だ」と書かれていました。そのくだりをちょっとご紹介してみましょう。

 聡明というのは、ものごとの理解がよくて頭脳明晰なことをいうことばだが、文字を見ると、まず「聡」で、耳扁がついているのでもわかるが、耳の賢さである。「明」は目の賢さだが、耳のほうが先行している。
 勉強がよくできる子は、たいてい記憶がいい。記憶力は生まれつきではなく、後天的にのばされる能力である。同じきょうだいでも、記憶力に大きな差があることがあるのは、生まれてからの経験が異なるからである。記憶力をよくする方法ははっきりしているわけではないが、よくききとったこと、よくきき分けたことが記憶になりやすいのは自然である。うるさくしゃべって、人の話がきけない子は記憶したくても耳に入らないのだからしかたない。
 よくきく子ときけない子の違いは年齢とともに大きくなる。小学校へ入るくらいの年になれば、聴力の理解力はこどもによってかなり大きく違ってくる。

 上記文章では、子どものきく(漢字を当てるなら、「聞く」より「聴く」が適当でしょう)姿勢を鍛えることで記憶力を高めることができるとされています。また、子どもにきく耳をもたせるための教育は早いほどよく、小学校入学あたりから個人差が大きくなっていくのだと書かれています。これを書かれた先生は、学者として名高いだけでなく幼児教育の大家であり、お茶の水女子大学の附属幼稚園の園長もされていたかたですから、学問的にも実践論的にも十分信頼できる情報と受け止めてよいでしょう。おたくのお子さんは、おかあさんの言葉にしっかりと耳を傾けているでしょうか。記憶力のよい子どもにするには、まずもってきく耳を育てることが重要なんですね。

 前出の先生は、「こどもはみられるべし、きかれるべからず」というイギリスの諺(ことわざ)を紹介し、「これは、きく耳を育てるためのしつけである」と説明しておられます。この諺は、「こどもが人前に出たら、黙っていなさい、よけいな口をきいてはいけません」という意味です。「みられるべし」は、私たちにはわかりにくい表現ですが、「余計な口をきかず、だまって聞いていなさい」といった意味のようです。私たち日本人は、家族連れで会話をするときに、子どもを話題の主役にして褒め称え合ったりしがちですが、イギリスでは子どもはしゃしゃり出ずに、まずは大人の言うことに耳を傾けているよう促すという伝統があるのですね。日本では舌足らずの子どもが勝手に何かしゃべっても、大人は寛容の目で見てニコニコしながら相手をしますが、それが却ってきく耳を育てるチャンスを失わせているのかもしれません。また子どもも、大人の言うことをきくものだという観念をもたないまま育ってしまう恐れがあるのではないでしょうか。

 これまでの内容を踏まえ、「では、わが家ではどうしたらよいか」ということについて、一緒に考えてみましょう。子どもを連れた家族同士で会話をする機会はそうそう多くはないと思います。毎日の生活において、子どもの耳をよくするにはどうしたらよいかを考えてみましょう。すでに、妙案を思いつかれたかたもあるかもしれませんね。

 私からは、次の2つの案をご紹介しようと思います。

 まず1つ目ですが、親から話してきかせたと思っていても、子どもがしっかりきき届けているかどうかはわかりません。そこで、親が大切なことを話したときには、「今おかあさんは何と言ったかな? もう1回言ってみて」と、子どもに反芻させるのです。命令口調では子どもが身構えてしまいますし、子どもから自然と注意を集中してきく姿勢を身につけることにはなりません。優しく子どもに言いきかせ、注意してきく習慣を身につけさせるのです。

 2つ目ですが、おかあさんが家事をしていたとき、子どもが「ねえ、ねえ」と何か言いたげな素振りを見せたことはありませんか? そんなとき、忙しいおかあさんは「後で」と後回しにしがちです。さらには、そのまま忘れてしまうおかあさんもおられることでしょう。 こういうことが続くと、お子さんはおかあさんの対応の裏返しとして、「人の話はきかなくて構わないんだ」ということを学ぶと言われています。ですから、子どもの話は時間が許す限り真剣にきいてやることが必要(子どもの拙い話を我慢してきいてくれるのは、世界中でおかあさん一人です)ですし、もしも「後で」と言ったなら、本当に後できいてやることが大切です。このことは、先ほどのイギリスの格言と矛盾するわけではありません。家庭内のやり取りにおいては、子どもに理路整然とした話ができるようしけなければなりませんし、子どもの話をきく親の姿勢も子どものよい手本となるものです。

 私たち大人でも、人の話を注意深くきけない人間はたくさんいます。それはそそっかしい性格的な側面というよりも、人の話を傾聴する姿勢を育て損なったからではないでしょうか。よくきける人は記憶力も育つという話を冒頭でご紹介しましたが、この能力は家庭教育の賜物と言えるでしょう。

 「勉強のできる子にするには、何の勉強をさせたらよいか」という視点だけでなく、子どもの能力基盤を高めるための子育てという観点も大切にしていただきたいですね。きく姿勢は毎日の子育ての積み重ねで育つのだということを念頭に置き、今からがんばってみていただきたいと存じます。

H.S